可哀想に、気を失ってしまった麻穂を抱き抱え、僕はふたりを一瞥する

男は麻穂が気絶したのを見ればすぐに透くんを床へと押し倒しその首に牙を埋め込んでいた

透くんは歯を食い縛りじたばたと暴れて抵抗しているけれど、相手は比較的清い血統のヴァンパイア

元々は人間の透くんが敵うはずない

「君は最初からこれを狙っていたんじゃないの?」

僕は血を貪る獣に声をかけた

それ は首から口を離して答える

「さぁな、どっちにしろお前の姫君を傷付けるつもりはなかったから安心しろよ」

可哀想な獲物は怨めしげにいう

「当たり前だ・・・・なんのために僕がこうやって喰われているとおもうんだよ?
さっきの女もそうだったが・・・お前ら、飲み過ぎだ、くそっ・・・」

僕はお前らの餌じゃないんだぞ・・・

そう言うと透くんは倒れた

顔色がかなり悪い。

いわずもがな 貧血だ

「僕が透くんをこんな状態にしたわけじゃないんだ。家までちゃんと送ってくれるよね?」

「はぁ!?なんでだよ!!あの女の方が容赦なかったんだぜ!?味見程度しかしてねェよ!」

「じゃあその女の人に話をつけて、運ぶように手配しておいてくれない?」

男は大きくため息を吐いて透くんを担いだ

それはそうだ、今夜透くんが一緒だったのは椿氏の一人娘

派手なことが好きで、自分が好きで、自分のことを好いてくれている人が好き

今回の件を相談しようものならへそを曲げられるにきまっている

そして二度とお茶会にも集会にも舞踏会にも呼ばれないのだ

椿氏はそこそこの血筋の権力者であるから、そうなるとまずい

「くそ・・・女ならまだしも、男を担がにゃならんとはな」

大切な麻穂をこんな男にはいどうぞと渡せるわけがないだろう

あぁ、こっそりと会場を抜け出して、表で待っている運転手に麻穂と透くんと男を預け、僕は椿氏にみんなの分まで挨拶をしてからようやく帰れるのか・・・

窓から空を見上げると、くもりがちな空

あぁなんて、長い夜なんだ

僕は重い足取りで、メインホールの人の声を避けるように車へと向かった