『え?』

お兄ちゃんは男の背後少し先、廊下の曲がり角から出てきた

一体いつから?

どうして男は気づいていたの?

もしかして男に仕組まれていた・・・?

疑心暗鬼になりかけていると、お兄ちゃんは男に近づき、いきなり右頬を平手打ちした

「・・・・・・ッ」

高い音が長い廊下に響く

男は少し怯むもまた不敵な笑みを浮かべた

「少し煽っただけでこれとは・・・透、そんなに腹が立つのか?それとも喉が渇いて仕方がないとかか?」

「お前・・・!!!」

ぎり、歯を食いしばり勢いをつけて右手を振りかぶる

今度は拳で、だ

『きゃぁあああッ!!!』

男は壁に叩きつけられた

ほぼ同時に廊下の花瓶が割れた

きっとよろめいた先にあったのだろう

だが私にはどうすることもできない

だって、私は今床に倒れ込んでいるから

お兄ちゃんは更に殴る、殴る、殴る

だが私にはどうすることもできない

だって、私の意識はほぼないから

血液が流れている、赤い血が、目を惹く朱が

なが レて、るカラ・・・



気を失う直前、伯父さんの姿を見た

慈しむように抱き上げられる腕を感じた

けれど、私にはもうわからない

意識がどこかへ、海の底へ、森の奥へ、迷い込んでしまったから