「真帆、ちょっとここは__」
雅也が入り口で立ち止まった。中に入るのを渋っている。
「大丈夫。私が出すから」
「いや、それはちょっとな。やっぱり前に行ってたハンバーガー屋にしない?肉汁ハンパないし、真帆、前に美味しい美味しいって2個も食ってたじゃん」
やや強引に腕を引かれるが、私はその場に踏みとどまる。
こんな、蚊ほどの力では私は動かせない。
「今日はせっかく雅也に会うから、私が予約したの」
そう言って、軽く引っ張った。
雅也を転がすようにして、店の中に押し込む。
「お待ちしておりました、太田様」
恭しく出迎えられ、テーブルに案内される。
そこは別世界。
崇高な空気に包み込まれ、静かに食事する音だけがしていた。
萎縮する雅也に微笑みかける。
「真帆、生きててホントに良かった」
「運が良かったのよ」
「でも、バスの転落事故で1人だけ助かるなんて奇跡だよ」
「こうしてまた雅也と会えたし」
「真帆、ほんとに変わったな?」
「ダイエットがんばったからだよ」
「もちろん、痩せてめちゃくちゃ可愛くなったのはある。でもそれだけじゃなくて、なんか垢抜けて雰囲気が変わった」
「そうかな?自分じゃ分からないから」
「マジで真帆、可愛いよ」
「__ありがとう」
俯き加減に微笑んでおく。
この言葉を、あの頃の私に聞かせてあげたい。
そう思いながら__。