「ぐっ‼︎」
叫び声すら、上げることもできない。
でも痛い。
痛みが、強烈な飢えをかき消す。
手のひらを貫通したはさみが、私を呼び戻してくれた。
もう少しで、獣になってしまうところだった私を。
これじゃ、同じことだ。
きっと、由加里もこうやって獣になったに違いない。
飢えに打ち勝つことができず、肉を喰らった。
人としての尊厳と引き換えに。
私は、私はそうはならない。
絶対に獣に成り下がることだけは、それだけは__。
まだ僅かに思考することを保っている間に、手を打たなくては。
ここにはもう、誰も居ない。
私を殺してくれる、誰かは居ない。
気がついたら、由加里を食べているなんて、貪り食っているなんて、私には耐えられない。
由加里は「生きて」と言った。
でも獣になってしまってまで、生きる意味はない。
一口でも食べたら終わりだ。
残っている理性が吹き飛ぶだろう。
だから今のうちだ。
今のうちに、自分の手で終わらせるしかない。
幸い、私にははさみがある。
これで、喉をひと突きすればいい。
獣になるくらいなら__。
私は、手のひらから引き抜いたはさみを、勢いそのまま喉に突き刺した。