「真帆、私を殺して‼︎」


涙を流して哀願する由加里は、とんでもなく強い力ではさみごと私を引き込む。


ぐいぐいと喉奥に刺しこまれていく。


「や、やめて‼︎」


深々と突き刺さるその寸前に、私は力を横に放り投げた。


刃先が喉をすっーと切り、2人の手から離れて飛んでいく。


その拍子に、鋭い牙を剥き出しにした由加里が飛び掛かってきた!


「__っ⁉︎」


だが、途中でピタリと止まった由加里は、間一髪のところで我に帰ると、すぐにその顔に驚きが過ぎる。


自分がまた、かつてのパートナーに襲いかかろうとした事実。


それが分かっていながら、自制がきかない現実。


歯止めがきかない。


もう、食い止めることができない__。


その時、由加里の顔に浮かんだのは、悲しみと諦め。


2つの感情が綯(な)い交ぜになって、どこか切なげにも見えた。


膝をついて項垂れている。


全く動くことなく、時が止まったまま。


やがて静かに立ち上がった由加里は、ゆっくりと歩いていく。


はさみのほうへ。


手を伸ばし、はさみを拾う。


こちらに背を向けているので分からないが、小刻みに肩が震えだした。


首を振り、頭を叩き、なにかが憑依するかのようだ。


「あぁああああ」


どこか投げやりな、低い唸り声はやがて雄叫びとなる。


由加里が振り返った。


でもそれは、もう由加里ではなかった。