「こ、小塚さん‼︎」
足首の痛みも忘れ、突っ伏した小塚を助け起こす。
すぐに顔を上げて、乱暴に突き飛ばした男を見上げるが__。
「なんだよ、デブ」
冷たい目で見下ろされ、胸がきゅっと縮まった。
バスで私の斜め前にいた、痩せた男だ。
小塚さんとは対照的に、引き締まった体と攻撃的な顔立ち、思いやりの欠片もないように感じる。
「あ、謝りなさいよ‼︎」
「デブが生意気に指図するな」
「デブデブうるさい‼︎」
「自覚はあるのか?俺に話しかけるのは、痩せてからにしてくれ」
そう言い捨てると、さっさと行ってしまう。
「待って。待ちなさいよ‼︎」
走って追いかけたいが、今は立ち上がるのが精一杯。
しかし、闘争心が痛みを消し去った。
あんな野蛮な男に、このまま負けたくない。
私を【デブ】の一言で切り捨てた恋人と同じだ。
あいつには、あいつだけには負けたくないんだから‼︎
「小塚さん、行きましょう‼︎」
「あ、うん」
私の剣幕に押されたようだったが、2人で山道を登った。
私1人じゃ、諦めていたかもしれない。
そう思うと、あの男にも感謝したほうがいいのか?
いや、あいつだけは絶対に__。