【獣】


最初に会った時から、あいつは感じが悪かった。


私を「デブ」だと罵り、見下し、嘲笑っていたように思う。


デブは俺に話しかけるなとまで言った。


いつも輪を乱し、自分のことしか考えていない。


口も悪いし、恐らく1億円のことしか頭にないのだろう。


沢渡篤志のことが、私は嫌いだった。


でもあいつは__あいつだ。


裏も表もない、ただの篤志。


私に嘘をついて騙していた小塚さんより、ずっと正直じゃないか?


正直すぎるのが、ちょっと難点だが。


そんなあいつが、助けてくれた。


でもそこに、なんの思惑もない。


優しくして近づき、太らせて後で食べようなんてこともしない。


本能だ。


危なかったから助けた、それだけのこと。


「誤解すんなよ、お前に死なれちゃ寝覚めが悪いからな」


そう言って、篤志は照れ臭そうに__。


出口に向かって真っ直ぐ突き出た手を握り、私は力を込めて引っ張り上げた。


篤志に持たされたハサミで、迎え撃つこともできた。


退治するには絶好のタイミングだ。


でも、そうはしない。


私は信じているから。


飛びつくように篤志の手を握り、引き上げる。


私は、信じていたから__。