私の目線に気づいたのか、小塚さんがハッとしてヨダレを拭いた。


それでも、とめどなく溢れてくる。


次から次へと口から垂れ流されるヨダレを、止めることはできない。


だってそれは、無意識だからだ。


アキの血の匂いが充満する部屋で、自制することができない【本能】なんだ。


それは即ち、小塚さんが【あちら側】だという証拠。


食べられるほうではなく、喰らうほう。


「前回の優勝者は、小塚さんなんでしょ?」


私が尋ねると、小塚さんは水でばしゃばしゃと顔を洗った。


ヨダレを洗った顔は、どこか清々しくも見え__。


「そうだよ。僕が前回の優勝者さ」


いとも呆気なく認めた。


「そんな、どうして?」


「どうして黙っていたかということかな?それなら理由は簡単。僕は、好きな人を見つけに来たんだ」


「好きな、人?」


「そう。心から大切に思って、この人の為なら命を投げ打ってもいい、そう思える人と出会いたくて」


そう言って、少しはにかむ。


頬が赤らんでいる。


けれど私には、小塚さんが一体なにを言っているのか、なにが言いたいのかが分からなかった。


それどころか__。


「真帆ちゃん、この世の中で1番、美味しい肉はなにが分かるかい?」