「亜季さん、好きな色は?」
「色?」
「そう、私はピンクが好き。部屋一面ピンクなの」
「私は__オ、オレンジ」
「オレンジか。いいよね、気持ちが明るくなる」
亜季の頭を撫でながら、私は明るい声で言った。
血を飲んだ後の亜季は、正気に戻る。
ようやく会話ができるようになるが、肝心の話は通じない。
いつから居るのか?
私より前なら、何日間、絶食しているのか?
それなら__どうして、生きていられるのか?
脳を刺激する内容は、亜季を混乱させてしまう。すぐに叫び出し、暴れてしまう。
子供をあやす母親のように、他愛もない話をする。
亜季はオレンジ色が好きで、秋が好き。
亜季と秋、同じだからと初めて笑った。
笑ってくれた。
真帆から聞いていた話だと、もっと狡猾な子だと思ったが、幼子みたいに素直だ。
どんどん子供に戻っているような__?
ただ、穏やかな時間は長くは続かない。
「いや、いやっ」
小蝿を追い払うように、亜季が呟き始める。
やがて激しく震え出し、大きく咆哮をすると、自ら壁にぶち当たって暴れ出す。
まるで、なにかを追いやるように。
亜季は戦っている。
自分を痛めつけるのはきっと__自分を守るため。
【人】であることを、見失わないために。