くすぐったい。


首筋に吐息を感じる。


強い息が、体中を撫でているようで__。


「えっ⁉︎」


私は身を起こした。


どうやら眠っていたようで、覆い被さるようにして亜季が__私の匂いを嗅いでいる。


まるで【犬】のように。


鼻をひくひく動かし、鼻腔から思いっきり吸い込んでなにかを確認しているようだ。


「ちょっと⁉︎」


少し乱暴に突き飛ばした拍子に、亜季の足の鎖で腕を切ってしまった。


わずかに血が流れる。


ばい菌でも入ったら大変だ。


ただでさえ食事しておらず、免疫が落ちている。


かすり傷が命取りになる恐れもあるが、拭くものすらない。


どうしようか考えていたら、ふと亜季と目が合った。


手をついて、四つ足のような体勢の亜季の目が、暗がりで異様に輝いている。


熱を帯びた瞳が、私を見ていた。


いや、私じゃない。


私の腕から垂れている【血】を、取り憑かれたように見ている。


それしか存在していないように。


身の毛が総毛立つ。


逃げようとしたが、一気に距離を詰めてきた亜季に腕を取られた。


「痛っ‼︎」


捻られるような力、とても衰弱した人間のものじゃない。


手を引くが、万力で押さえつけられたように動かない。


「や、やめて⁉︎」


私が叫んだと同時だった。