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泣き声が聞こえる。
しくしく。
とても悲しい、女性の泣き声。
「私、村上由加里。あの、あなたは?」
声を掛けたが、返事の代わりに聞こえてくるのは啜り泣き。
暗がりでよく見えないが、恐る恐る近づいてみる。
本当ならすぐにでも駆け寄りたかった。
心細くて泣いているのだから、励ますのが当然だ。
きっと私と同じ。
ダイエット合宿に参加して、途中で脱落してここに連れてこられた。
そして__目の当たりにしたに違いない。
同じ参加者たちが、無慈悲に殺されたのを。
どういうワケか助かった私は、ここに押し込まれた。
四方をただ壁で囲まれた、なにもない牢獄のようなところに。
先客は泣いている。
だから肩を抱きたいところだか___匂うんだ。
それも強烈な匂い。
血と肉が混ざって発酵したような、そう【獣】の匂いが奥に充満していた。
しくしくしく。
か細い泣き声に引き寄せられるように、私は薄暗がりに向かう。
獣のほうへと。
「あの__大丈夫?」
屈んで、女性と目線を合わせる。
そこでようやく私に気づいたのか、びくっと体を震わせて顔を上げた。
「私は村上由加里。あなたは?」
もう一度、はっきり尋ねると彼女は答えてくれた。
「私は__前田亜季」
と。