小さく呟いたのは、篠田さんだった。
篤志にデブだと罵られたにも関わらず、だ。しかも小塚さんまで「僕もそんな気がする」と言い出した。
「それは無いと思うけど__」
けど、確実にバーは上がっており、篤志は苦痛に顔を歪めてぶら下がったまま。
まさか、あの沢渡篤志が情にほだされた?
私が米山多恵を打ち負かすのを躊躇ったように、篤志も葛藤しているのか?
だからあんな苦しそうな顔をしているのか?
自分が針山に落ちるのに、見知らぬ男の娘を助けるというの?
「うそかもしれないじゃない」
自然と口をついて出てきた言葉に、自分自身で唖然とする。
その証拠に、小塚さんと篠田さんの2人が、目を見開いて私を見た。
私が発した言葉に驚いている。
「そんなの、1億円欲しさに口から出た出まかせよ‼︎」
ガラスを叩いて訴えると、本郷守が毒づき始めた。
それでも篤志は動かない。
さっきまでは、苦悶していた表情すら消えていた。
まさか、諦めた?
うそかもしれないのに、きっと篤志だってそれを分かっているのに、受け入れたの?
気に食わない奴だったけど、時折みせる素顔は真っ直ぐだった。本当は心の優しい奴だったの?
「ダメだ、もう刺さる」
そんな声にハッと見上げると、天井の針が篤志の手に刺さろうとしていた__。