少しずつ少しずつ、篤志がぶら下がるバーは上昇していく。
抵抗できない小動物を、いたぶるかのように。
天井の針で手を刺されれば、離すしかない。
そして落下した先に待ち受けている針が、体を貫く。
それを防ぐには、本郷守のように懸垂をしなければならない。
どれだけ手が震えても、力が入らなくても、カロリーを消費し続けなければならないんだ。
「早く懸垂をして‼︎」
私は叫んだ。
篤志を応援する義理はないが、さっきの自分の対戦の時も、足が動かない私を怒鳴りつけてくれた。
嫌味だし高慢だし意地悪だし、良いところは何もないけれど、だからといって串刺しになればいいとは思わない。
「なにやってるのよ‼︎」
声は届いているはずなのに、顔色をなくした篤志は動かない。
懸垂の1回や2回、雑作もないはずなのに。
その時、本郷守の喚き散らす声が聞こえてきた。
「お、俺は、娘がびょ、病気なんだ‼︎手術を受けるのに、い、1億円いる‼︎だ、だ、だから負けられない‼︎」
自らの体を持ち上げながら、懸垂を繰り返す。
その鬼気迫る様子に、思わず気圧される。
「もしかしたら、それを聞いて負けるつもりじゃ?」