【それでは、頭上の棒につかまって下さい】
水平の鉄棒だ。
対戦する2人がつかむと、宙にゆっくり上がっていく。
途中で停止すると、ぶら下がった体勢となる。
【それでは、沢渡篤志さんvs本郷守さんの対決をスタートします。懸垂をしてカロリーを消費するか、体重を減らして頂いても構いません。では始め】
合図を待たず、本郷守が懸垂を始めた。
1回、2回、止まることなく体を持ち上げる。
一見、小太りに見えるが、筋力はあるようだ。
けれど、ムダな脂肪が一切ない篤志には敵わないだろう。
懸垂なんて余裕のはずだ。
今も勢いよくスタートした本郷を横目に、余裕でぶら下がっている。
これは対戦相手を間違ったんじゃないか?
おそらく、残っている参加者の中で最も身体能力が高いのが篤志だ。それに気づかず指名した、明らかなミスだ。
すぐに玉のような汗を滴らせ、本郷はバテ始めた。
まだ篤志が、1回も懸垂していないというのに。
「なんか、様子がおかしくないか?」
同じく見守っていた小塚さんが、眉をひそめた。
いや、あれはパフォーマンスだ。
小馬鹿にされて怒った、篤志なりの抵抗。今にも怒涛の懸垂を披露するに違いない。それも、これ見よがしに__?
「やっぱりおかしい」
未だ1回も懸垂せず、動きもしない沢渡篤志。
その顔が、青ざめていた。