「みんなは危ないから家から出ないでくれ。」
遥はそう言って出ようとする。
「待ってくれ!さっきのは『セブンスター』のボスじゃないか?奴が来るとなると部下もかなりいるはずだ。」
遥はシノケンに向かって笑顔を見せて言う。
「案ずるな。あのレベルの雑魚なら私に掛かれば1000人でも倒せる。それに私は絶対に負けん。」
遥は外に出ると『セブンスター』の首領ブラッグスとその部下100人が待ち構えていた。
「ふっふ〜〜〜〜!!貴様が昼間に仲間を一方的に殺した小娘だ〜〜〜なあ〜〜〜?貴様は美人で可愛いから取っ捕まえて俺様の玩具にしてやぁる〜〜〜〜!!」
「ふん。やれるものならやってみろ。私は貴様ごときには負けん。」
遥は巨漢のブラッグス相手に全く怯まない。確かに雑魚達と比べると明らかにオーラは違う。しかし、それでも遥は怯まなかった。この男より強い奴はいくらでもいるからだ。
「おい、貴様らにはこの脇差しだけで相手してやる。貴様らごときに鉄砲は弾の無駄遣いだからな。」
「なぁ〜〜〜にぃ〜〜〜〜!??それは俺様たち『セブンスター』を舐めているのかぁ〜〜〜〜?」
「ああ、舐めているよ。」
遥はサラッと臆せずいう。それに対してカチンと来たブラッグスは激昂する。
「貴様ら〜〜〜〜あの小娘を生きたまま捕らえろぉ〜〜〜〜!!なんなら腕でも足でも斬って構わん〜〜〜〜!生きて捕らえてこい〜〜〜〜!!」
その指示の通りに雑魚部下は遥に襲いかかってくる。
「ふん。私を殺す気が無いのなら戦いやすいな。だが、私は殺す気でいくぞ。」
脇差しを手に取り迫り来る雑魚を相手に遥は前へと出る。
「ぎゃああぁ〜〜〜!!!」
「たわいもない。」
それは刹那の出来事であった。遥に迫り来る雑魚100人が、僅か5分で全滅された。
しかもそれだけでは無く、遥は返り血を着物にかからないように上手く斬っている。
「ふん。『セブンスター』とはこんな奴しかいないのか?まぁ、煙草の名前をパクる様な集団だから頭も弱そうだし仕方無いか。」
セブンスターの首領ブラッグスは戦慄していた。100人もの腕に覚えのある部下が5分そこらで全滅されたこと、遥の戦い方が小娘の癖に異常に荒々しい事、そして軍団の名前が煙草のパクリとバレたこと。
「ふ、ふ〜〜〜ん?中々やるじゃ〜〜〜ん?で、でも俺様の方が8000万倍強い!!!」
ブラッグスは手にする斧で遥をなぎ倒そうとする・・・が、遥はブラッグスの動きをヒョイっと避けてしまう。
「無駄無駄。貴様と私の強さは剣術・知識以外にも速さが段違いだから。」
ブラッグスが遥の方を見ると、既にそこには遥はいなかった。
「どこを見ている。私はここだぞ。」
ブラッグスは後ろを振り向くと、そこには遥はいなかった。
「どうした?私はここだぞ?」
「ん、だぁぁ!!ちょこまかとぉ〜〜〜〜小娘がぁ〜〜〜力では勝てないくせにぃ〜〜〜!!」
すると遥はブラッグスの前で動きを止めた。
「これは『瞬動』と言ってな。瞬時に動くって意味そのものの技だ。今みたいに撹乱するのが効率的でな。」
「瞬動・・・?」
困惑するブラッグス。無理もないことだ。
瞬動は遥ぐらい武芸を極めた人では使えないからだ。普通はお目にかかる事はない。
「ではその首貰い受けるぞ」
『瞬動』を使いブラッグスの背後に回り首を腕で固定して、首に刃を近付ける。
「な、何をするぅ〜〜〜のだ〜〜〜!!ひ、その刀ヒンヤリするぅ〜〜〜〜怖いよぉ〜〜〜〜死にたくなぁい〜〜〜!!」
「大丈夫だ。私がやれば痛みすら感じないから。」
その瞬間、遥の刃がブラッグスの首を一瞬で切り落とした。
遥の顔には返り血がかかっていたが着物にはかかっていない様であった。
「ふぅ・・・。大したことなかったな。しかし・・・。」
流石の遥でも飯を食べてすぐに動いた為、お腹が気持ち悪い。
「う・・・。ちょっと転びたい気分だ。」
ヨロヨロと気分悪そうな顔をしていると、町の住民が沢山現れた。どうやら、さっきまでの戦いを見ていたようである。
「すげェー!あの女の子強すぎだろ!」
「華麗だ・・・!」
「あの娘はヒーローだ!」
「可愛い!結婚してくれェ!!」
等々と遥の活躍を称える誉め言葉が聞こえ、少し嬉しく感じる。
表情には出さないが気分は上機嫌だ。
「遥ちゃ〜ん!凄い剣術じゃないか!へーいハイタッチ!」
家の中から飛び出してきたテンションの高いシノケンがハイタッチを要求したが遥は無視した。
「あら?ノリ悪いなぁ・・・」
「お前は少しテンションがおかしいぞ。・・・それと少し気分が悪いから転びたい。済まないがベッドを借りるぞ。」
「あっ!そうか!」とシノケンは気付いて遥をベッドの場所まで案内する。
「そっか飯食ったばかりで戦ったから気持ち悪いんだね。良いよ、俺のベッドで寝ると良い。」
「んん〜っ!!ん〜あっ!」
外が眩しい・・・。そして暑い・・・。砂漠って日中は滅茶苦茶暑くて夜は滅茶苦茶寒いから温度差が辛い。
遥は昨日の戦闘の後にすぐに寝てしまった。そして、今時間は10時だ。かなり寝てしまった様である。
「それにしても汗でベタベタして嫌だな。この町には銭湯は無いのだろうか?」
昨日の戦闘の後、お風呂に入らずに寝たから汗でベタベタ気持ち悪い。
風呂を借りようと思っても家にはシノケンもいないし、家にはお風呂がついていないようである。
この地方は家に風呂がついていないのが普通なのだろうか?遥の生まれ育った島国ではどの家庭にも大体お風呂は付いていたのだが、他の地方ではあまり見ない。
「お腹も減ったし歯も磨きたいのだが、砂漠の町だからか水道が通っていないみたいだな。」
遥の生まれ育った島国では水道はどの家庭にも通っていた。遥の生まれ故郷は電気も水道もガスも通っていたが、世界もかなり先進的な国だった様だ。
「家にいても何もないし、せっかくだから町でもうろつくか。」
町に出ると遥は周りの注目の的であった。
「あの可愛い娘、昨日大活躍だった娘だ!」
「凄い!カッコいいお姉さんだ!」
まるで町の英雄のような扱いに少し動揺して、少し嬉しくなってしまう。
するとパン屋のおじさんが近付いてくる。
「昨日の活躍見ていたよ。この町を救ってくれて有難う。このパンをあげるから食べてね。」
「え、あ・・・ありがとう。」
遥は貰ったパンを少しかじる。
「・・・うむ、美味しい。」
美味しい・・・しかし、今は風呂に浸かりたい。何処かに風呂を借りるところは無いだろうか・・・と思っていたら目の前に『銭湯』の看板があった。
どうやら朝からでも開いているみたいである。遥は入ってみると店員さんが1人いたので声をかけてみる。
「済まないが、ここは女湯はあるのか?」
見た感じ女性が来そうに無いお店に見えたから聞くだけ聞いてみた。
「ああ、ここの町は男女混浴だよ。砂漠の町なんて大体そんなもんだよ。」
凄く素っ気ない言い方をされたが遥は気にしない。それより、やっとお風呂に入れる喜びの方が強かった。
遥は更衣室に行くと着物をゆっくりと脱いで、タオルで胸などを隠して銭湯の扉を開く。
「これが、この町の銭湯か・・・。」
遥の生まれ故郷と比べてもあまり変わらない銭湯で少し嬉しかった。地方によっては全然違うお風呂もあるから困ることも稀にあるのだ。
「うむ、シャワーもあるし、石鹸も常備している良い銭湯じゃないか。」
そして銭湯全体を見ると遥以外の客はいなかった。
男女混浴と聞いていたから男に裸を見られるんじゃないかと思っていたが、そんな心配は無いようで少し安心した。
遥はまずはシャワーで体の汗を洗い流した。
「あぁん・・・気持ちいい〜。」
疲れた体に温かいシャワーをかけると凄く気持ち良くて幸せな気分である。
汗を洗い流すと体を石鹸で洗い、髪をシャンプーで洗う。
どうやら、この地方にもシャンプーとリンスはある様だ。リンスがあるのは女性である遥にとっては嬉しいことである。
髪を洗い終えると遂に湯に浸かる事になる。
ゆっくりと足から湯に浸かる。足からお湯の温かさを感じて、お湯の熱が徐々に体の疲れを取っていく。
「はァ・・・ん。」
少しいやらしい声を出してしまったかもと感じた遥は周りをキョロキョロとする。でも誰もいないから大丈夫の様である。
「ふぅ・・・良いお湯で変な声が出てしまった。しかし・・・気持ちいいから仕方無い。」
口調はいつもと変わらないが表情がトロ〜ンとなっていて滅茶苦茶幸せそうな顔をしている。
凄く気持ちいい。あと30分は浸かっておこう。どうせ、やることないから別に良いだろう。
その後、きっちり30分後に風呂から出る。
髪を乾かしたりコーヒー牛乳を飲んだりして、ようやく外へ出る。
「さっぱりした。そろそろ次の町へと行かねばな。」
風呂から出て遥は次の目的地をどこにするか考えていた。
遥の旅に目的は特にない。しかし、出きる限り武芸を極めつつ世界の平和の為に働きたい。
この世界はどこも治安が不安定な為、どこへ行っても遥の力が必要となるであろう。
悪人退治しながら己の実力を磨くことが出来るなら、それに越したことはない。
しかし旅へ出る前に、遥には1つ心残りがあった。それは倒れた遥を助けて家まで運んでくれたシノケンへのお礼である。
昨夜の『セブンスター』のブラッグスを倒したのはシノケンへのお礼ではなく、この町のために遥が勝手にやっただけである。町の人やシノケンがなんと言おうとアレはシノケンに対するお礼ではない。
お礼とはその人個人に対するものである。
遥はそのお礼を考えていた。
結局、遥は町をうろうろして夕方にシノケンの家に戻ってきた。
家に入るとシノケンが料理していたところである。
「お、遥ちゃん良いところに帰ってきたね!ちょうど料理が出来上がるところだから。」
シノケンが持つフライパンからは肉の美味しい匂いがする。
「肉料理か。私は肉大好きだぞ。もちろん海鮮料理も和風も西洋料理もイケる口だ。」
実は遥は華奢な体格の割には結構食べる。武芸を極めんとする者は動くエネルギーが必要だから昔からよく食べるように育てられたとか。
「はい、お待たせェ〜。牛肉のステーキと鳥の唐揚げ、焼き鳥も焼けばあるぞぉ!」
「おぉ!!滅茶苦茶美味しそうではないか!おかわりはあるのか!?」
目を輝かせながら遥は食べる。
「おかわりはお米ならあるけど、おかずは無いよ?」
「米はあるのか。」
そう言って遥は手提げ袋から缶を取り出す。
「唐揚げにはこれを少しつけて食べると美味しい。」
遥があけると匂いがシノケンのところまで伝わってくる。
「この匂いは味噌?味噌はこの辺では珍しい高級品じゃん!」
「ただの味噌じゃないぞ?我が故郷でもとても美味しいと言われている味噌だ。コレを唐揚げにつけて食うと美味しいのだ。ほれ、シノケンも食ってみるがよい。」
遥は唐揚げに少し味噌をつけてシノケンの口に押し込む。
「熱い熱いっ!出来立ての唐揚げを口に押し込むなよ・・・。って何か旨いぞ?」
「そうだろう、そうだろう。付けすぎると塩分の取りすぎになるから、ほんの少しつけて食うとちょうど良い美味しさになるし、体にも良いのだ。」
シノケンは驚いていた。武術のみならず食に関しても凄い女の子だ・・・と。
食事も終わり一息付いて、遥は言い出した。
「私は明日の昼にここを旅立つ。シノケン、短い間であったが有り難う。」
いきなりの別れの言葉にシノケンは驚いてしまう。
「ええっ!?明日の昼に!?いきなりすぎるよぅ!」
「すまんな。私は色んな国を旅して武芸を極めようと思っているんだ。砂漠でお前が私を助けてくれなかったら、武芸を極めることも出来なかったであろう。本当に助けてくれてありがとう。お前は私の命の恩人だ。」
深々と頭を下げる遥にシノケンは困惑する。
「そ、そんな頭を下げられても困る・・・!むしろ俺の方が助けてもらったよ。セブンスターのブラッグスも倒してくれたし、遥ちゃんのお陰で平和になったんだ。」
そうか、と遥は呟く。
「しかし、それは成り行きで倒したんだ。私はまだお前個人に恩を返せていない。そして、その恩なのだが、私が成人して初めて酒を呑むときはシノケンと二人で呑むと約束しよう。昨日、やたらとしつこく酒に誘ってきたからな。」
「え、良いのかい?俺と二人っきりで酒を呑んでくれるのかい?」
「うむ、もちろんお前さえ良ければだ。私も酒を呑むならシノケンと呑みたいのだ。だから、四年後を待っていてくれ。私は約束は守るし、シノケンの事も忘れない。だからシノケンも私の事を忘れないでくれ。」
「も、勿論だ!誰がこんな美少女を忘れるかよ。遥ちゃん!約束だ!四年後会ったら酒に付き合ってもらうからなっ!」
お互い忘れないように、覚えておこうではないか・・・。