「オトー」
 

放課後の喧騒に割るように聞こえた寝惚け声に、俺のクラスは一瞬だけ静まり返った。
 

胡乱に廊下に目をやり、声をかけた人物を睥睨(へいげい)する。


「なんだよ、頼。つか『オト』ってなんだよ」


「いーじゃん。はるおとって長いし」
 

普通に友達のように話すのは、先日カメラ片手に二年の教室に乗り込んで来て俺を追い掛け回した謎の一年首席、日義頼だった。


蒼白になった俺が窓から飛び降りて逃げた結果を知る同級たちも、頼は恐怖対象になってしまっていた。
 

……その一部始終を見ていて、頼の言動の意味のわからなさにどうすることも出来なかったクラスメイトや他クラスの生徒も、今の状況も意味がわからず声を潜めて俺たちを見ていた。