その日の夜、珍しく夕方に帰ってきた友紀さんは弁当の入った袋を片手に持っていて、キッチンに立つわたしを見ると、しまった、という顔をした。


「ご飯の用意しちゃってた? ごめんね、連絡すればよかったねえ」


「ううん、大丈夫。明日の朝用にも出来るし」


ムニエルにする予定だったけれど、明日の朝に塩焼きにすればいい。

まだ包丁をいれていない鮭を冷蔵庫に戻して、温かいお茶の用意をする。


一旦着替えに行った友紀さんが戻ってくる前に、テレビをつけておく。

葵衣のことで話をするのだろうし、無音だと堪え切れる気がしない。


目の前に置いたお茶から立ち上る湯気を見つめ、これからする話という名の答え合わせが正解で埋まらないことを願う。

大体は合っていていいから、少しだけ、わたしに都合のいいところは間違っていて。


たとえば、葵衣がこの家に帰るつもりがないこと。

たとえば、葵衣ともう会えないかもしれない可能性。


真実味を伴ってわたしの中にある事柄さえも否定しそうになるから、早く真実を知りたい。

嘘ばかりのわたし達は、もう憶測で探りあっては傷付くことの応酬に辟易してしまっているから。