「あっ、さくら。ごめんね。こんな早く起こして。

さくら、いきなりでごめんね。」




「いえ。平気です。」




「さくら…



お兄さんに会いたい?」





私は、下に降りると施設長にそう問われた。




いきなり、会いたいかなんて言われても…




私は、一瞬だけ思考が止まった。




だけど、それは一瞬のことで私の思考はすぐ動き出した。





「私は、兄に会う気はありません。



それ以上に、私には家族なんていないから。」





私は、気づいたらそう言葉にしていた。






「私は、産まれた時から家族はいません。



だけど、私は育ててくれた大切な人がいます。


家族がいない私たちを大切に育ててくれた先生がいてここまで成長できた。



だから、私は今更兄に会うつもりは一切ないです。」





今更、会いたいかって言われても。





私は、どうしたらいいのか分かるわけがない。





「さくら、ちょっとそこに座って。」





私は、先生と90°の位置のソファーに座った。






先生は、対面式が嫌いで対面式だと圧迫感から子供は何も言えなくなる。





たしか、先生は前にそう話したことがあった。



たしかに、対面式よりもこちらの方が話しやすい。



「あなたがここに来た時、私に初めて行ったことなんだったか覚えてる?」




私の脳裏によぎったのは、『家族がいたら幸せ?』という言葉だった。




家族のいない私には、遠い世界のように感じて無縁のような存在に感じた。




私は、施設長の言葉にうなずいた。



「もし、さくらにあの時の気持ちが残っているなら私はさくらに面談を進めたい。でも、それはさくらがいいよって言わない限り私が無理矢理さくらをお兄さんたちに合わせることはできない。


さくら…。


少し、自分の気持ちに正直になって考えてみて。


お兄さんたちは、さくらの気持ちが整理できてからでいいって言ってくれてるから。」



私は、1日だけ時間をもらって考えてみることに決めた。



施設長の言う通り、私は少しでも家族というものがどんなものなのか知りたい気持ちが残っていた。



前向きに、自分のプラスになるかだけを考えてみよう。