『逃げる理由ないよ。自分から言ったんだし。……それに、逃げないって約束したし』


『昼間は逃げたくせに』


『う……だってあれ、流夜くんがいきなりキスとかするからじゃんっ。…………ねえ、なんで今まで教えてくれなかったの?』
 

静かな音で問われて、俺は身体を起こした。


うーん……頭も動く、かな。


咲桜の手も取って起き上がらせ、向かい合って座る。


『咲桜も夢うつつとは思わなかった。……完全に忘れているようだったから、嫌がゆえに忘れてるなら、そのまま忘れていた方がいいのかと思った。咲桜の同意なくしたことだったし、たぶん寝起きで咲桜も意識がはっきりしていなかったかもしれないから』
 

その直前に、過去のトラウマに向き合うことを話していたのだ。


いっぱいいっぱいになって眠ってしまって、忘れていた方がいい現実もある。