『ただいまー。』



そう言ってリビングに入ると

お兄ちゃんがゲームをしていた。



『おかえり。飯ー。』



ノールックでそう言うお兄ちゃん。



『うん、ちょっと待っててね。』





両親が出張や仕事で帰ってこない時は


料理が好きな私が


ご飯を作ることになっている。



ちなみに、お兄ちゃんとは血は繋がっていない。


一年前に私のお父さんと


お兄ちゃんのお母さんが再婚して


私たちは兄妹になった。




だけど、高校での名字は


変える手続きとかが面倒臭いという理由で


お兄ちゃんは木南という苗字


私は入江という苗字のまま生活している。




『んー、今日は唐揚げか。』



ゲームが終わったお兄ちゃんが


そう言いながら私の手元を覗き込む。




余程お腹が空いたのだろう。



『そうだよ。嫌だった?』

『嫌じゃないよ。』



お兄ちゃんはうちの学校の生徒会長で


生徒会副会長の玲音先輩と仲がいい。



『あ、そう言えばね、

今日玲音先輩と一緒に帰ってきたんだ。』



私は今日の出来事をお兄ちゃんに話す。


これは、一緒に暮らしてから


ちゃんと兄妹になるために


ずっとしている事。



『玲音と!?珍しいな。何で?』


お兄ちゃんがそう言うのも無理はない。



『玲音先輩、傘持ってなかったみたいだったから。

誰かさんに貸したせいで』


お兄ちゃんに貸したと言ってたから


嫌味っぽく言ってみると


お兄ちゃんは少し焦ったように

『そ、そっか。』

と言っていた。



まあお兄ちゃんのおかげで



私は一緒に玲音先輩と帰れたんだけど……。



思い出そうとしなくても


思い出してしまう。



『ゆう』



そう呼ばれたあの場面が


頭の中で何度も繰り返される。



……嬉しかった。



嬉しいんだ。私。




突然深い溜息をつく私に



『!?夕姫、どうした?』



お兄ちゃんは驚いていた。


でも、この感情については


話せないよ。




私はわざとらしくニコッと

満面の笑みをする。



え、何!?と戸惑うお兄ちゃんに


何のフォローもしないことにした。



確かにまだ葛藤はあるけど


でも、


少しだけ、ほんの少しだけ



平凡な私の世界が変わる気がした。







夜、お兄ちゃんと私は二段ベッドに寝る。


これはお父さんが


せっかく兄妹なんだから


ということで買ってきた。



私達も最初は戸惑ったものの


最近は意外と気に入っている。




私は二段ベッドの下



『ねえ、お兄ちゃん。

明日って弁当要る?』


『あぁ。』


『中身、何でもいい?』


『うん。』




お兄ちゃんの弁当を作るのも


私の役目。



寝る前に頭の中で明日のお弁当の


献立を考える。




お弁当……玲音先輩に作ったら


どんな顔して食べるだろう。



私が作ったものでも

喜んでくれるのかな。



さっきから何を考えていても


頭の中には玲音先輩が出てくる。



それほど、あの時のことが印象的で


あんなに降っていた雨が


もう止んでいたことにすら


気付けないくらいだった。