『私、そこ曲がったところが家やから
そこまででええよ。』
その場所に着くと玲音先輩は傘から出ていこうとする。
触れ合っていた2人の腕も少しずつ離れていく
その感覚が嫌で
『玲音先輩!!あの、また学校で……。』
また……会いたい
その言葉はまだ言えなかった。
その代わりに精一杯の気持ちを伝えるために
手を振る。
『うん。またね。……えっと、』
玲音先輩は言葉に詰まりながら
振り替えそうとしてくれていた
手をソロソロと降ろしながらいう。
『名前、なんて呼べばええかな?
悠介の妹じゃ嫌やんな。』
そうか、名前か。
『何でもいいですよ。
好きなように呼んでください。』
玲音先輩が呼び方を
気にしてくれただけで嬉しい
私は無意識にそう思っていた。
そっかー。と玲音先輩は少し悩んで
よし、決めた。と顔を上げる
『じゃあ、またね。ゆう。』
そう言って玲音先輩は笑って帰っていった。
玲音先輩の整った白い歯がキラキラと
輝いて見えた。
フリーズして固まる私。
『……ゆう。』
玲音先輩だけが呼ぶ
私の呼び方
心臓が再びバクバクと言っている。
この感情の名前を私は知っている。
でも、当てはめていいのだろうか。
嘘でしょ、私。
玲音先輩はれっきとした女性で
そして、私も女だ。
男女の恋愛が当たり前なこの世の中に
私が玲音先輩に抱いたこの感情を
恋と呼んでいいのだろうか。
初めて経験する出来事に
葛藤はある。
それでも、
玲音先輩が私のことを
『ゆう』
と呼んだあの声が、笑顔が、
脳裏に焼き付いて離れない。
心なしか
私に打ち当たる雨が
強くなった気がした。