「うちにはほしい逸材ですけど。あの子、いつこっち側を離れてしまうかわからないじゃないですか。向こう側に落ちてしまうかわからない。自分にかけた鎖がないあの子は、龍生先輩の後継の中で一番危なく揺らぎやすい。だからまー、惚れ込んで入れ込める子がいたらいいなーと思いまして」
「それで?」
「流夜くんが逆らえない――逆らいたくない相手は、華取先輩か龍生先輩だけです。吹雪か降渡くんから廻る線もありますが、それではかわす道を同時に与える。絶対に逃げ道のない子は、華取先輩唯一の娘である咲桜ちゃんだけでした」
「………」
「そして流夜くんは、生きることを肯定出来る子ですから」
「―――……」
「一つだけ助かった命を責め続けた期間は長いから。……自分が生きていることを、自分の命をゆるすことが、あの子は出来る。今はもう迷いなく出来ます。そして――そろそろ、誰かにゆるす心を見せることも出来るんじゃないか、と。降渡くんの報告ほど親しくなるのは計算外でしたけど。……そんなとこですかねー」
「……咲桜のためにもなる、か……」