事件性なしとは言い切れず、直接在義の担当にはならなかったが、失踪者リストと照会がはじめられた。
どれも空振りだった。
仮の名として、在義が『桃子』と名付けた。桃の季節だったからだそうだ。
単純だ。
桃子は、線の細い美人だった。
娘ちゃんが桃子を、天女の羽衣のような繊細さだと言っていたのを聞いたことがある。
娘である咲桜は、在義や夜々子の教育が勝ってか、意思のはっきりした、大分気が強そうな娘に育ったが、年齢より大人びて見える。
発見当時の桃子は推定年齢は二十歳だったが、娘が高校一年でありながら既に社会人にまで間違われるほど大人っぽいので、桃子の実年齢も、もしかしたらかなり幼かったかもしれない。
結局、桃子はどの失踪者リストとも一致しなかった。
桃子は記憶喪失なだけではなく、子供も宿していた。
しかるべき施設に一度預ける形になりそう――だったところを、在義が掻っ攫った。
この首を差し出すからこの子は自分がもらい受ける、と。
日頃とんでも発言ぶちかましている在義だが、それは断トツでとんでもなかった。