「と、父さんから、先生にはあまり常識を当てはめるなとは言われてますが……」
「そうなのか? 迷惑をかけたな」
在義さんに何を言われたんだろうか。
と言うか、華取から在義さんに訊いたのか、在義さんから聞かされたのか、その辺りが気になるな。
さっきとは違う感じで華取の瞳が泳いだ。
「ええと、ご飯、作ります。お勝手借ります」
「ん? ああ」
華取の方が頭痛でも抱えているような顔になった。
キッチン、リビング兼ダイニングは一間なので、華取の背中を見る形になる。
もう一つある六畳の部屋にベッドが置いてあるが、いつもリビングのソファで私事からの寝落ちが常だから、そこは本を置いておく部屋としてしか機能していない。
「いつも、放っておいて治ってるんですか?」
「自覚してないから、そうなんだろうな」
空気から緊張が消え、のんびりしてしまっている。
そう言えば降渡や吹雪に「顔色悪いから休め!」と怒られたことは何度かあったが、体調悪い自覚もなかったから無視していた。
「……周りの苦労が忍ばれます……」
何故か俺の周囲が同情されていた。