「なんだよ、それ……っ」



葵が壁を叩き、叩いたところからパラパラと破片が落ちる。
まるで、葵の今までの沢山詰まった萌花への想いが消えていってしまうように…。



「ふざけんじゃねぇよ。何で急にっ……!!だったら最初から守れよ!!!!」

 
悲痛な叫び。葵の気持ちが痛いほど伝わってくる。
葵にかける言葉が見つからず、沈黙が訪れる。そんななか口を開いたのは萌花だった。



「葵くん、それはちょっと違うよ。アレは不慮の事故……、誰も悪くないよ」


「っ……、でも、お前は女の子なんだぞ……?」



萌花は大人びた表情で微笑んだ。萌花の言った“アレ”が何のことを指しているのかなんて、あたし達には到底わかり得ない。きっと、萌花と葵にしか分からないだろう。


葵はなにか言いたげに唇を噛み締め、俯いた。



「じゃあ」



葵は萌花の言葉の顔をあげた。ゆらゆらと瞳が揺れていた。




「もし貰い手がいなかったら、葵くんが私を貰ってね!」


「……は?」



さっきとは打って変わって、にっこり、満面の笑みを浮かべる萌花。



「は?貰ってって、つまりお嫁さんにって「あー、でも無理かあ。許嫁いるし……」」



混乱する葵の言葉に被せるようにして萌花は話す。
あたしも桜も呆気にとられる。


ようやく意味を理解した葵が、顔を真っ赤にさせる。あー、このピュアピュアボーイめ。



「ごめんね、葵くん。今の件やっぱりなしね!」



葵の心中なんて露知らず。めちゃくちゃに振り回す小悪魔萌花。
なんだか見ているこっちがかなしくなってくるわ、本当。切なすぎる。


珍しく時空が、落胆している葵の肩を優しく叩いて励ましていた。