「いえ、陛下のようには上手くいかないですね……」

「そんなことないわよ!私は何度も作っているから、慣れているだけよ」


女王陛下の、オーブンミトンをつけた手が目の前でブンブンと揺れる。

謙遜するつもりが逆に気を遣わせてしまったと内心で反省しながら、私も彼女にならってケーキの形の部分を右手で持ち、オーブンの中に入れる。


「それじゃあ、焼いている間にお片付けをしましょうか」


オーブンミトンを元あった棚の引き出しに戻して、女王陛下は気合を入れ直すように、よれていたエプロンを結び直した。


「はい。私がやりますので、女王陛下はお休みになっていてください」


お菓子作り中は気が散るからと、召使いをキッチンに入れず、その代わりに全てを自分でやるという。

女王陛下秘伝のレシピを教えてもらったお礼にとそう申し出るが、女王陛下は首を横に振った。