「久しぶりだねロゼッタ。髪を切ったんだね。また綺麗になったんじゃないかい?」

「へ、あ……」


いつの間にか手を伸ばせば届きそうな距離まで近付いていた国王陛下は、恭しく私の手を取って、甲に口付けた。

小さい頃に近所の男の子達とお使いに駆け回ったりと、その程度の異性経験しかない私は突然の行為に対応できずに口を開けるしかできない。

まるでプリンセスになったような気分になって――いや、実際今はプリンセスなのだが――戸惑いを覚える。

どういう切り返しをしたらいいのかわからずに、手の甲に軽く押し付けられた形の良い唇の先を見ていると、ふんわりと優しい香水の香りがして国王陛下が離れていった。


「一応、私の婚約者ですので」


とん、と私の背中が硬い何かに当たって、慌てて振り向くと国王陛下とよく似た顔の若い男……エリオット王子が、苦いものでも食べたような顔をして私の方を掴んでいた。


「若いな」


なんて国王陛下が小さく笑うと、エリオット王子はげんなりした顔を見せて片手で虫を払うような仕草を見せた。

それに対して、国王陛下は肩をすくめて笑う。

王族の親子は仲が良くなかったり、堅苦しいイメージがあったので、こんな風なごく普通の親子のようなやりとりを見て、私は目を見開いた。