「女王陛下。それならそうと言ってくだされば、もっとお時間を取りましたが……」

「あら、母様でいいのよ。背伸びしちゃって」

「……女王陛下は女王陛下です」


親子とはいえ立場の違いがあるため、エリオット王子は恭しく彼女を呼ぶが、女王陛下はそれが気に食わなかったらしい。

気恥ずかしさもあるのか、エリオット王子は少しだけ言いよどんで、視線を彼女から逸らした。


「さあどうぞ召し上がれ。タルト・タタンにアプリコットクッキー、スコーンもあるわ」

「あ、ありがとうございます……」


給仕の男性が取り分け皿に置いた茶菓子を各々の前に置き終えたのを見計らい、女王陛下はニコニコと人好きする笑みを浮かべながら勧めてきた。

甘く煮込まれたリンゴが敷き詰められたタルトを見下ろして、私は浮き足立ちそうな気持ちを必死に抑え込んでいた。

勧められるままに食べていいのか、はしたないと思われてしまわないかと不安混じりに、ちらりと女王陛下を盗み見る。

彼女はそんなことは全く気にしていないようで、優しい微笑みを崩さないままで、ケーキフォークを手に取ってタルトを一口大に分けて口に運んだ。