「それはそうと、これから国王陛下と女王陛下がお見えになる」
「あらそう、陛下が……陛下が!?」


ここに来て思っても見なかった人物と対面することを聞かされ、私は密かに冷や汗をかいていた。


「どうしましょう……私、粗相をしてしまうかも……ねえエリオット王子」


妹と両陛下がどの程度接点があるのかも分からないし、何より私は淑女として振る舞いやマナーなど、知識として学んだ程度で実際に他者に披露した事などない。

早くなる胸の鼓動を聞きながら不安げにエリオット王子を見上げると、やはり彼の顔は氷のような無表情のままだった。


「あの御二方はお喋り好きだから、適当に話を聞いて相槌を打っていたら問題ない。ドレスは俺が見繕ってきたものを着るといい」


エリオット王子の合図で、扉の向こうで控えていたらしい、ヴァローナに代わる前の教育係であった初老の女性、ミセス・リフェルが恭しい仕草で部屋に入ってきた。

その手には畳み込まれた桃色の布が抱かれている。
彼女に倣って、数名の女性従者が同じように布を手にしてやってきた。