「いきなり動かれると苦しいのだが」


冷静になって聞くと、エリオット王子の声が自分の下から響いてくることに気が付いて、視線をそちらにやった。


「や、やだ……!」


エリオット王子の腕にしがみついていたことによってか、ここに移動させられた時に彼を下敷きにしてしまっていたらしい。

押し倒す形になってしまっていたことに今さら気が付いて、私は慌てて彼の上から退いた。


「ベッドの上でなら歓迎だったんだが」

「もう、あなたはまたそうやって軽口を!」


先程まで生か死かの極限状態に晒されていたというのに、いつもと変わらない調子のエリオット王子に呆れた声で返す。

すると、少し離れた場所から男の呻き声が聞こえて、はっと弾かれるようにそちらを見た。

エリオット王子もゆっくりとした動作で立ち上がる。


「さて、見事に形勢逆転したわけだが」


肩口を血で濡らしたまま、呆然と床に膝をついているクリストフ王子に視線をやって、エリオット王子は不敵な笑みを浮かべている。

それが合図だったかのように、ヴァローナは即座に立ち上がって瞬く間にクリストフ王子の腕を捻り上げていた。