「エリオット様!イリヤ様!」


よく聞き慣れた声が聞こえて、真っ白だった視界が急に開けた。

ナイフを右手に持ったまま、呆然と地面に膝をついてこちらを見る褐色の肌と漆黒の髪を持つ青年――ヴァローナが、そこにいる。


「一体、何が……?」


辺りを見回すと、そこは隣国の城の敷地内……ではなく、光の中で見た、幼い頃の私とエリオット王子が婚姻契約を交わしたホールだった。


「《血印の書》の封印が解かれて、契約を交わした場所に戻されたのか……?」


呆然としていたのはエリオット王子も同じだったようで、彼は困惑したように辺りを見回して、そう呟いた。

私が《血印の書》を隣国の書斎から持ち出した際に作ってしまったかすり傷と、その際に流れた血とエリオット王子の血が交わったことによって封印が解かれたのだろう。

それと同時に一気に戻された記憶。
エリオット王子と私は偽りの婚約者ではなく、本物の婚約者だったことが判明した。

私は少しだけ気まずい気持ちを抱えたまま床に手をついて起き上がる。