「お前ら新宮の話全く聞いてなかったろ」

弥月と九重は顔を見合わせ満面の笑みでケラケラと笑う。

「ったく、バカを抱えると苦労するなー、んじゃ“重要任務”に合流するか」

「「え……徒歩で?」」

そう言われて銅はエンペラーホテルを見るが、57階建て高層ホテルのてっぺんが小さく見えるほどの距離がある。
事故を起こした2台のうち1台は大破、もう1台も車体が歪んでいる。
エルズ捜索を取る手もあるが、今更新宮班と合流しにいくのは時間の無駄だ。
つまりエンペラーホテル一択なのだが交通手段がない。

「走るぞ」

「いや10kmはありますよ…」

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エンペラーホテル玄関前の巨大駐車場では約400人の宿泊客がもの見たさにホテル上層部を見上げる。
中では掃討隊上位班がエルズと死闘を行っており、そこから生じる高級家具の木片など様々な落下物を興奮の眼差しでスリリングに見つめている。

「ちょっ…危ねーから下がれって!」

海外の金持ちで溢れる駐車場は、言葉の壁に阻まれもはやもう一つの戦場と化している。
掃討隊第44班班長、蔵酒司が声を張るが当然聞く耳を立てようとしない。
どれだけ隊員達が注意をしてもそれは“なんかデカい声”程度にしか響いていない。
上層部からの命令でここに集まった掃討隊は現時点で計11班。人数にしてたった40人ほど。
興奮状態の400人を少人数で制御しているのだ、命令のかかったであろう残りの19班が集まっても到底足りる気がしない。

「なんで避難しねんだよコイツらァ!」

「仕方ないですよ班長!この人たち“コレ”を見るために泊まりにきたようなもんですから!」

「もの好きってレベルじゃねーなぁ!金持ちの考えることは分かんねーわ!」

この状況を1つのアトラクションとでも捉えているのだろうか。
ただ一つ言えるのは、1泊数百万の四つ星ホテルに泊まっていながら、そのホテルが破壊される様を見て興奮できるその神経はまともではない。一円玉と一万円札を同価値として扱う富豪層にとっては数百万単位の金額は誤差の範囲なのだろうか。どちらにせよ異常だ。

「」