ふいに、零に手をぎゅっと掴まれる。


「好きだよ。縁ちゃん。小1のときからずっと好き」


聞いているこっちまで恥ずかしくなるような言葉も、優しく揺れる茶色い髪も、非現実的な恋愛映画も、甘ったるいカフェオレも、

そのすべてが、わたしと零が釣り合わないと言っているような気がした。


「…わたしは好きじゃない」
「これからも縁ちゃん以上に好きになる女の子なんていない。ずっと好き」


未来のことなんて、誰にも分からない。

“ずっと”なんてないのに、それでも言い切れる零の純粋さが、わたしと零がいかに違うのかを証明していた。


「“これからもずっと”なんて、あまりにも無責任だよ」
「えんちゃ、」
「あきれた。帰る」


鞄と上着を持って、飲みかけのブラックコーヒーを残して、逃げるようにカフェを飛び出した。


このまま家に帰るのが憂鬱で、飛びだしてすぐiPhoneを取り出して電話をかける。


「よー天野。どした?」
「相澤?今夜空いてる?飲みいこ」
「え、おま、なんだ急に。しかもこの前は予定あるって、」
「なくなった。お願い相澤…」


わたしがそう言うと、相澤は、わたしの様子が変だと感じ取ったのか、相澤は「しゃあねえなあ」と笑った。


「相澤はほんとわたしに甘いよね」
「俺お前にだけは優しいからな」
「うん、ありがと」


わたしは、いい友達を持ったものだと考えながら、電話の向こうの優しい友達に笑いかけた。