「そんな理由?!俺、気にしないよ!」
「そんなこと知ってるよ。零じゃなくて、わたしが気にするの」


大人になって、わたしは、自信を無くして臆病になった。

零のように、まっすぐ人に恋するなんてできないのだ。もし、零と付き合うことになったら、その事実に傷つくことになるのだろう。零と自分を比べて、劣等感を感じてばかりになる。


「わたしと零じゃダメだよ」


大好きな漫画の新刊や、好きな小説家の新作を読むのが怖くなったのはいつからだろう。

その内容を知ったあと、落胆するのではないか。それなら、読まずに大切に取っておいた方がいいと思うようになった。そんな、臆病な人間になってしまった。

さっき見た映画もそうだ。現実の恋愛はあんなにうまくいかない。それなら再会なんてしないまま、綺麗な思い出のままの方がいいのではないか。わたしが、昔の輝く自分を綺麗な思い出として心に残しているように。


「考えも、年齢も、何もかもが違いすぎる。零はこんなわたしとは違う。一流大で、キラキラした人生を送る人だよ」