「ふはっ。だよな!なんだ俺。変なの」



「はは.......本当...」



無理矢理笑顔を作ったつもりだけど、この時ばかりはよく笑えてなかったと思う。



新選組の人達はこうも勘が鋭いものなのかな、



「なあ、聞いてもいいか??」



「答えられることなら」



「文ってさ、好きな奴いないの?」



「好きな人.......」


藤堂平助サイド



「文ってさ、好きな奴いないの?」



「好きな人.....」



文は誰を想ったのか、少し頬を染めて微笑んだ。



「好きな人はいないよ」



「そうなのか?」



「好きなのかな。わからないや」



「わからない?」



「まだ私も自分の気持ちがわからないの」



文は空を眺めると、こう付け足した。



「でもこの気持ちは、一生言えないかもね」



俺は、その切なそうな顔の彼女を見たら、理由は聞けなかった。



「平助君はいないの?」



「俺はね〜、いない!」



気になるヤツなら目の前にいるけど!!



「そっか〜。好きな人、見つかったら教えてね」



「おう!!」


話し込んでいるうちに、気づいたらもう日が沈みかけていた。



夕日を眺める彼女は、やっぱり他の奴らとはどこか違って見える。



文はいつも何を考えてるのか全くわからない。
...いや。あらゆる感情が混ざり合っていて読み取れないという方が正しいか。



だけどそんな彼女は誰よりも美しく見える。



夕日の光が彼女の輪郭をぼやかし、今にも消えてしまいそうだ。



「文。お前は俺たちの仲間だからな。いつでも相談乗るから」



「平助くん.....ありがとう」



それはここへ来てから3ヶ月ほど経ったある日。



「おい。大島」



「なんですか?土方さん」



副長室で聞かされたのは、最近京の町では辻斬りが流行っているとのこと。



「剣が振るえなくてもいい。ただ、護身用に刀を常時持っておけ」



「その辻斬り、強いんですか?」



「さぁな。見た事はねぇが、ここらで剣の腕がたつと有名な奴があっさり殺られちまったらしい。まぁ、侮れる相手じゃねぇ事はたしかだ」



「出くわしたら殺すんですか?」



「お前、まさか殺り合うつもりじゃねぇよな?」



「探してまで斬るつもりはありません。ですがここに居る限りは皆さんと同等の振る舞いをする覚悟でいます」



「剣術の経験は?」



「多少ですが」



「.......万が一、奴と会っても無理だと思ったらすぐ逃げろよ」



「わかりました」



そして渡された刀。



「この刀には名前がないらしい。勝手につけていいそうだ」



「刀の.....名前.....」



その時、ふと思い浮かんだのが



「誠桜」



「しんおう?」



「誠の桜と書いて誠桜。誠の志を持った武士たちはまるで桜のように美しい」



「いい名前を付けたな」



珍しく土方さんが本当に優しい笑顔で微笑んだ。泣く子も黙る鬼の副長。そう呼ばれる彼は、本当は優しい方なんだ。



「土方さん、ありがとうございます」



「ん」



そして土方さんは書物に目を向け、再び手を動かした。



誰よりも寝るのが遅く、そして起きるのが早いのは土方さんだ。



こうやっていつも書物を書いている。



大量に積まれた紙。誰かに手伝ってもらえばいいのに、一人でこなしてしまう辺り、本物の鬼にはなれてない。仲間想いの優しい鬼なんだ。



そう思った。



「土方さん、頑張って下さいね」



「ん。どうも」



部屋に戻ると刀を見つめた。



さっき多少刀は扱えるとか言ったけど実際は私の叔父様が剣術が大好きで、独学らしいけど強く、私も小さい頃から覚えさせられた。



私のいた時代は、外で木刀を振っているだけでも町を歩く機械に目を付けられたりする、そんな厳しい世界だった。



政府は完全に超近代化思考。そんな奴らに対抗し、自然と自由を求め、戦う組織もあった。



私もその組織に入っていて、一度は組長を任されたこともあったが、自ら辞退の道を選んだ。あの頃はいつも先陣切って何構わず飛び込んだ。



だけど、いつの間にか隣を走っていた仲間、後ろにいたはずの仲間は消えていて。


そんな状況に耐えられなくなった私は、精神的にも追いやられた私はついに政府の人間に手を出した。



あの日は何人殺したかわからない。
怒りという感情に任せ、目の前の全ての人間を殺した。



そんな私は、戦場の女神だとか、似合わないネームを付けられていた。



私は所詮ただの人殺し。英雄なんかじゃない。



ただ意見が食い違っていたというだけで、政府側だって同じ人間だ。



人間は、どんな理由があっても人を殺してしまったらただの人殺し。



犯罪者なんだ。



それを承知の上で殺していたんだから、私は私が怖い。



そんな現実に耐えられなくなった私は、逃げて逃げて逃げまくって、戦場とは程遠い素朴な町で暮らすようになった。



そんな時だ。新選組の存在を知ったのは。


気力を失い、何も出来ず真っ黒に染ってしまった私の心に光を差してくれたのが彼らの存在。



あの時、私に欠けていたものが彼らにはあり、私が目指したであろう生き方がそこにはあった。



今、私があるのは全て新選組のお陰。もしあの時新選組に出逢わなかったら、きっと私は自分のした事と、物狂おしさ故に命を絶っていただろう。



そんな彼らを、私は命を懸けてでも守りたい。そのためならどんな事をしてもいい。どんなに手を汚してもいい。



私はここへ来て、そう心に誓った日から日々過ごしている。