その翌日、総司率いる一番隊と俺たち三番隊の合同練習で、休憩をしていると総司がなにか言いたげに俺を見つめていた。



「言いたいことがあるなら言え」



「はじめ君さ、大島さんの事、好きなの?」



「?!?!」



何故かその質問に動揺してしまった。



「へぇ.......好きなんだ?」



「まだ何も言っていないんだが」



「好きなんだ?」



「二度言うな。それに、俺はそんな感情は持たない」



「本当にぃ?」



「それがなんなんだ」



「別にー。何でもないけど」



何でもないといいながらも、頬を膨らませる総司はやはり変な奴だ。



俺が女などに興味を持つはずがない。



そうだ。好きなんかではない。



そう心に言い聞かせるようにしながら稽古に励んだ。

大島が来てから新選組は変わった。



常に廊下は綺麗だし、庭も整っていて前よりは断然良くなっている。なにより、隊士の士気が上がった。
稽古が終われば、大島が汗を拭くための布と差し入れを持ってきてくれる。



廊下を歩いていると、隊士が稽古で怪我をしたらしく、大島から手当を受けていた。そしてその隊士は、顔を真っ赤にして彼女を見つめていた。



そんな場面を見ていると心がモヤモヤした。この気持ちはなんなのだろうか。



大島は誰にでも偏見なく優しく、特に隊士たちには評判がいい。最近はそんな事をよく耳にするようになった。


「大島さぁん!!」



どこから飛び出したのか、総司が大島に飛びついた。



「うわっ?!お、沖田さん!!どうしたんですか?」



「何もー!ただ大島さんと話したかっただけ〜」



「いいですよ」



そんなふうにニコニコしながら肩を並べて話す二人はまるで恋仲みたいだった。



総司は大島の事を好いている。大島はどうなのだろうか。



「はぁ.......」



柄にもなく大きなため息が出た。


大島文サイド



ここの暮らしにもだいぶ慣れてきて、いつものように庭の手入れをしていると、すぐ隣の茂みが動いた。



猫?犬?鳥?それとも………



恐る恐る茂みをかき分けてみると、そこにはこちらに背を向けてしゃがむ藤堂さんの姿があった。



「えっと……藤堂さん?そんな所で何しているんですか?」



「わぁっっ!?!?な!なんだ、大島か...。びっくりさせないでよ!!」



「すみません。何をされているんですか?」



藤堂さんは何も言わずに目線を自分の懐に向けた。



「猫?」



そこには真っ白な小さい猫が丸まっていた。



「こいつ、木から落ちたみたいで足、怪我してるんだ」



見ると、確かに右の後ろ足から血が出ていて、猫も辛そうな顔をしていた。



「.......藤堂さん、その子をこちらに」



「え、あ、あぁ」



私は部屋へ駆け込むと、包帯と薬草で作った塗り薬を出して、手当をした。
次第に猫の表情も柔らかくなり、眠ってしまった。



「大島すげー!!お医者様みてぇだ!」



「医者だなんて」



「大島は何でも出来るんだな!」



「藤堂さんはお優しい方なんですね」



「俺?」



「猫を助けるなんて。本当に心の広い方でないとそう出来ることじゃありませんよ」



「へへっ。照れるなぁ」



藤堂さんは嬉しそうに頭をかいた。



「そういえばさ。俺たちどうせ歳も近いんだし、下の名前で呼び合わねぇ?敬語もやめてさ!」



「じゃあ.......平助、くん?」



「おうっっ!!!文!!」



些細な事かもしれないけど、この時代へ来て心細かった私に少しでも気を許せる人が出来た事が何よりも嬉しかった。



自然と笑みがこぼれた。



「なんか、さ。文って他の人たちと違う感じがするんだよな」



「えっ」



「悪い意味はないんだけど、なんつーかな。俺らとは見てる世界が違うようななんというか………まぁそういう事だ!!」



平助くんにまで私がこの時代の人間じゃないことがバレてしまうのではないかと、内心ドキドキしていた。



「みんな見てる世界なんて同じだよ」



「ふはっ。だよな!なんだ俺。変なの」



「はは.......本当...」



無理矢理笑顔を作ったつもりだけど、この時ばかりはよく笑えてなかったと思う。



新選組の人達はこうも勘が鋭いものなのかな、



「なあ、聞いてもいいか??」



「答えられることなら」



「文ってさ、好きな奴いないの?」



「好きな人.......」


藤堂平助サイド



「文ってさ、好きな奴いないの?」



「好きな人.....」



文は誰を想ったのか、少し頬を染めて微笑んだ。



「好きな人はいないよ」



「そうなのか?」



「好きなのかな。わからないや」



「わからない?」



「まだ私も自分の気持ちがわからないの」



文は空を眺めると、こう付け足した。



「でもこの気持ちは、一生言えないかもね」



俺は、その切なそうな顔の彼女を見たら、理由は聞けなかった。



「平助君はいないの?」



「俺はね〜、いない!」



気になるヤツなら目の前にいるけど!!



「そっか〜。好きな人、見つかったら教えてね」



「おう!!」


話し込んでいるうちに、気づいたらもう日が沈みかけていた。



夕日を眺める彼女は、やっぱり他の奴らとはどこか違って見える。



文はいつも何を考えてるのか全くわからない。
...いや。あらゆる感情が混ざり合っていて読み取れないという方が正しいか。



だけどそんな彼女は誰よりも美しく見える。



夕日の光が彼女の輪郭をぼやかし、今にも消えてしまいそうだ。



「文。お前は俺たちの仲間だからな。いつでも相談乗るから」



「平助くん.....ありがとう」