「.......大島くんは、今までに人を殺めたことがあるね?」



「えっ………どうして…」



「目を見ればわかるさ。今までにたくさんの人たちを見てきたからね」



凄い、こんな方が居たなんて。



「.......軽蔑しますか」



「いいや。だが、この事は秘密にしておくよ」



「それに、大島くんが悪い人では無いということもわかるからな」


「………ありがとうございます」



悪い人じゃない、か……。



「大島くん。よく来たね。歓迎するよ」



「ありがとうございます」


挨拶を終え、昼餉の用意を始めた。



おかずは無難にと、味噌汁・焼き魚・漬け物・白米とした。



慣れない台所と、大人数分の料理を作るのには苦労したけどなんとか時間までには間に合った。



食事を運び終えた頃にみんなが大広間へ集まってきた。



「ん!?!?なんでだ?!いい匂いするぞ!」



「うまそーー!!!」



などと隊士達は鼻をくんかさせながら席について間もなく、近藤さんの合図と共に戦争が始まった。



「うおーーーっ!!この魚うめぇ!!なんかいつもと味違くて最高じゃねぇか!」



「うめぇ..!!っけど今日っては藤堂隊長と永倉隊長が当番じゃなかったか?」



「いつの間にこんなに腕を上げたんだ...?」



当の本人たちは、無理矢理な笑みを作って言った。



「ん゛、あのな、今日からは大島が担当なんだよ、」



「ですよね……って、大島さん、こんな料理上手いんですかっ?!」



「あ、えーと.....小さい頃から作っていましたから」



「まじかよスッゲェェ!!!」



すると、隣で黙々と食べていた沖田さんが箸を止めた。



「これ、大島さんが作ったんだ。凄く美味しいよ」



「あっ、ありがとうございます」




私の作った至って普通の料理は、どこかの高級料理のように食べられた。



普段反応の薄い私でも、内心安心と喜びで溢れていた。



廊下の掃除や各部屋の放棄がけ、夕餉作り……。初めての屯所生活も無事終わるかと思ったその夜。


屯所内の庭の、小さな池の表面に映る綺麗なまん丸お月様。



「これは……満月?」



月……綺麗だな.....。



「そこで何をしている?」



「っ」



私は気を緩めいたため、後ろの気配に全く気づかなかった。



「あなたは?」



すると、その美形な男性は私を見下ろしながら言った。。



「斎藤一」



どこかで聞いたことのある名前だな。



「あ.......3番隊の隊長さんですね」



「.......何を見ていたんだ?」



「月です。池に映る」



「月が好きなのか?」



「.......ええ」



「……大島文と言ったか?何故お前はここに居る?」



「迷子になってしまった私を、沖田さんが拾って下さったんです」



「そうじゃない」



「え?」



. .
「何故お前は、ここに居る」



「どういう事……?」



「言い方を変えた方が良いか?お前はこの世の者では無いだろう。少なくとも、今を生きる者ではない」



「っ」



なんで、この人はそんな事を知っているの?



「な、何のこと、ですか?」



「とぼけなくて良い。事を他の奴らに絶対に言わないと約束しよう」




「.....信じますよ」



「あぁ」



「私は今から1000年以上後の日本から来ました」



「1000年.......」



流石の彼も、1000年という数は予想していなかったのか、目を見開いて驚いていた。



「なぜ、私がこの時代の人じゃないって分かったんですか?」



「お前を見た時、どこか他の奴らと違く感じた。まぁ、勘のようなものだ」



「凄い、ですね」



「何故1000年も先の人間がこの時代にいる?」



「自然というものを知りたかったんです。誠の旗を掲げる侍、武士を見てみたかったんです、多分それで...」



「多分?」



「何故ここへ来たのか、全く覚えてないんです。見たい、会いたいという意思があったことは覚えているのですが」



「なるほど。自然を知りたかったとはどういう事だ?」



「えぇ.....私の住む世界に、自然なんて物はほとんどないんです。分厚い鉄の空。人工の、汚染された空気。反乱や犯罪を起こした人々を残虐するためだけに造られた人工知能機械が歩く、石ひとつ転がっていない地面。



朝も昼も夜も、夜のない町」



「未来はそこまで進化しているのか」



「はい。今や地球の主導権を握っているのは人間ではなく、機械……からくりようなもの達です」



私はこの時代の人達にもわかる言葉に並べ替えながらゆっくりと話し始めた。



「どういう事だ?」



「先程も言ったように、人工の空気。それはあらゆる化学物質から作られた物で、中には有害な物質も含まれています。人間の命にも関わるような。



そのせいで今までに何万という人々が死んでいるんです」



「っ.........」



「ですから私達は四六時中“マスク”と言った布で、口と鼻を覆わなくてはいけないんです。他にも危険な物はそこら中にあります。



そんな時、電子化により本自体珍しいのですが……ある古い図書館で江戸時代、幕末についての本を見つけたんです。それは私のいた時代の1000年も昔の話でした。



何故か私は自然というものと、誠の武士たちに惹かれ、どうしても行きたいと思いました」


突然タイムスリップしてしまった時は本当に困ったけど...



「でも、ここへ来れて良かった.....。こんな風に自然を直で感じたことなんて無いです。月もこんなに綺麗。空気だって澄んでる。緑もいっぱいで.......。



同じ地球なのに、これ程まで感じる物が違うなんてなんか、切ないですね」



「あぁ」



「もう一つ。私の本当の名前はレビリティ・フロウ



異国語、フランスという国の言葉で誠の花という意味です」



「異国の言葉.....日本の者に異国の言葉ということはこれから日本は異国との交流は盛んになってゆくということか」



何も言えなかった。だって、新選組(壬生浪士組)は幕府であり、新政府は異国との交流を求め、幕府はそれを阻止する。



そんなの、言われなくても自分たちの負けを知ったのと同じ事。


「斎藤さん…」



「未来がどうだろうと、俺たちのやっている事が間違っていようと、俺たちは決めた事は必ず最後まで抜く。この身が朽ちるまでな。それが誠の武士というものだ」



「はい.........」



「誠の花。良い名を貰ったな」



そう言って、斎藤さんは私の頭に手を乗せ撫でた。



ここへ来て、何を考えているのかすら一切わからない彼だったが、その時は月の光の逆光の中、確かに微笑んでいた。