鏡はそんなに好きじゃない。


別に自分の顔やスタイルに自信が無い訳じゃないけど、ふと視界に自分の姿が映るのが嫌だった。


俺は鏡を裏に向け、シャワーの蛇口をひねった。

一日の汗や、こびりついた酒の臭いや女の甘ったるい香水の香りが水に流されてゆく。

頭から顎、顎から首、首から胸へと流れて行く水の感覚に、心がやっとほぐれる。

張り詰めた糸が少し緩むと、自然と表情も緩んだ。


ふぅ、とため息をついて風呂から上がる。

すっかり昇った朝日が窓から差し込み、舞っている誇りがキラキラと輝いていた。


テレビから聞こえるアナウンサーの声が部屋を充満する。


チハルは化粧も取らないまま夢の中だった。