二週間前、俺は東吾と共にニューヨークに向かい、『ハピネス社』の木下社長の元を訪れた。

“彼は保身のために必ずボイスレコーダーを携帯しているそうですよ”

当時俺についていた秘書が言っていた言葉を思い出し、今回の買収の件でも財前副頭取や早乙女社長とのやり取りを、何か残してあるんじゃないかと思ったのだ。

と言っても、そんな都合の悪い証言を自らする訳がない。なので、一芝居打つことにした。

『あなたのところの社員からこんな密告がありました。木下社長は「ピネス」から発ガン成分が見つかったという社内報告を、「宮内製薬」との買収契約が済むまで隠していたと。その社員から、その証拠となる文書も送られてきました。これはいったいどういうことでしょうか?』

全部ハッタリだったけれど、木下社長はあっさりと認めた。

『も、申し訳ありませんでした。これには……色々と事情がありまして』

『認めるんですね。では、こちらは弁護士に相談しておたくとの買収契約を無効にする法的手続きに入りたいと思います。うちが『ピネス』の件で支払った損害額は全て、おたくに請求しますので』

すると、木下社長は青ざめた顔で俺の腕にしがみついてきた。

『許して下さい! ちゃんと私は、『ピネス』の件を言うつもりでいたんです。でも、あの二人がそれを認めてくれなくて』

『あの二人?』

『あおば銀行の副頭取と早乙女社長です。倒産を免れたいならおまえはこっちの言うことを聞けと。その時の会話も録音してあります。どうか、聞いて頂けませんか』

木下社長は金庫からボイスレコーダーを出してきた。
そのボイスレコーダーには、財前副頭取と早乙女社長が木下社長を説得している様子が録音されていた。

『他にも彼らの会話を残してありますか?』

『はい。当時私は二人の会食の席にはいつも呼ばれていましたから。財前副頭取は早乙女社長から賄賂をもらっているんです。銀行が握っている極秘情報を教える見返りとして』

『そうですか。では、そのボイスレコーダーを全てこちらによこして下さい。そうすれば、今回の件を見逃してあげますから』

こうして、俺は確たる証拠を手に入れたのだった。