そして、1月10日。
いよいよ決戦の日を迎えた。

サクラージュホテル内にある料亭で結納を済ませた後、婚約披露パーティーの会場へと場所を移した。

「今日のパーティーが婚約披露パーティーだと受付で知らされた時、皆さんどんな反応をされたんでしょうね」

扉の前でスタンバイしていると、早乙女彩乃がそんな話題を振ってきた。

「そうですね。今日は創立記念パーティーということで招待状を送りましたから、受付で本物の招待状を渡されて、さぞや驚いたことでしょう」

契約の上で『宮内製薬』が『早乙女グループ』の子会社となる今日までは、結婚の準備も極秘に進めなくてはならなかった。

その為、招待客にも今日が婚約披露パーティーだということを伏せていたのだ。

「でもこれで、これからは樹さんとも堂々と会えますね。フフフッ」

これから何が起こるかなんて知る由もない彼女は、俺の腕に手を絡ませながら嬉しそうに笑っていた。


……

「それでは、我が社の副社長であります宮内樹より、婚約者のご紹介とご挨拶をさせて頂きます」

早乙女彩乃を連れてステージに上がると、大きな拍手が起こった。

いよいよか。
大きく息を吸いこんだその時、菜子の顔が視界に入った。口をへの字に結んで俺のことを睨んでいる。

まあ、怒って当然か。

でも、許してくれ。
今日はおまえの為に戦うから。
最後までそばで見守っていて欲しい。

そんな思いを胸に彼女の顔を見つめ返す。

「副社長……ご挨拶を」

司会者に促され、俺はマイクの前に出た。

「婚約披露パーティーにお集まり頂きました皆様。本日は皆様にお詫びしなければならないことがございます。…………わたくし宮内樹は早乙女彩乃さんとの婚約を、今この場で破棄させて頂きます。申し訳ございません」

俺は深々と頭を下げた。
会場内に大きなどよめきが起こる。

「おい! これはいったいどういうことだ! 娘に恥をかかせる気か! ちゃんと説明したまえ!」

怒鳴り声を上げながら早乙女社長がステージへと上がってきた。

「ええ。言われなくてもこれからきちんとご説明致しますよ。あなたが『あおば銀行』の財前副頭取と裏で手を組んで、うちを罠に嵌めたことも全て、ここにいらっしゃる皆様に聞いて頂くつもりですからね」

「な………………」

早乙女社長は言葉を失い、青ざめた顔で固まってしまった。

そんな早乙女社長に代わって、今度は財前副頭取が飛び出してきた。

「樹くん! 憶測でものを言うのはやめたまえ! 私も早乙女社長も君の会社を助けた覚えはあるが、陥れた覚えなどない! 早乙女グループの子会社となったことが不服なのかもしれないが、こんなの逆恨みにも程がある! これ以上言うなら君を名誉毀損で訴えるぞ!」

「けっこうですよ。名誉毀損でも何でもお好きに訴えて下さい。こちらも、ただの憶測で言ってる訳ではありませんからね。証拠ならちゃんと用意してますよ」

俺はジャケットからボイスレコーダーを取り出して、ニコリと笑ってみせたのだった。