私は勢いよく副社長室のドアを開けた。

「樹さん!」

突然、息を切らせながら入ってきた私を見て、樹さんが驚いた顔で立ち上がる。

「どうした! 何かあったのか?」

私は樹さんの元に駆けよった。

「樹さん! 彩乃さんは危険な人です! 彼女と結婚なんかしちゃダメです!」

私は夢中で叫びながら樹さんの胸にしがみついた。

「落ち着け、菜子。ちゃんと分かるように説明するんだ」

樹さんは真剣な口調で言いながら、私をソファーにすわらせた。そして、自分も隣にこしかけると、私をジッと見つめた。

「じ……実は今日」

私は樹さんに全てを打ち明けた。

彩乃さんに呼び出され、男達に襲われかけたこと。
白崎社長に助けてもらったこと。
そして、白崎社長から情報提供を持ち掛けられたこと。

樹さんは私の話を聞き終えると、頭を抱えながら深くため息をついた。

「そっか………そんなことが」

樹さんはかなりショックを受けた様子で、ひとり考え込んでしまった。

「だから、樹さん。彩乃さんとの結婚は考え直して下さい。会社が大変なのは分かります。でも、何か別の方法だってきっとあるはずです! 樹さん、私に言ってくれたじゃないですか。愛のない結婚なんかしてどうするんだって。樹さんだって同じですよ!」

私は樹さんの腕を揺すりながら必死に訴えた。

けれど、樹さんが返したのは信じ難い言葉だった。

「菜子。彩乃がとんでもないことをして本当にすまなかった。彼女は精神的に弱いから不安になってしまったんだと思う。でも、もう二度とこんなことはさせないから、今回だけは彼女のことを許してやってくれないか」

「え………」