「大丈夫? 菜子ちゃん。ケガとかない?」

白崎社長が心配そうに尋ねてきた。

「だ、大丈夫です。助けて下ってありがとうございました。あっ、でも、どうして白崎社長がこんなところにいらしたんですか?」

まるでヒーローのように現れたことが不思議でならなかった。そんな私に白崎社長は髪を掻き上げながら答える。

「ああ。君のことを待ち伏せしてたからね」

「えっ、待ち伏せ?」

「そう。だって何度電話しても全然取り次いでもらえなかったからさ、会社から出てくるのを待ってたんだよ。そしたら、菜子ちゃんが連れ去られたから、慌てて後を追いかけたって訳」

「そうでしたか……」

白崎社長には本当に感謝だ。
彼が助けてくれなかったら今ごろどうなっていたことか。考えただけでもゾッとする。

「家まで送っていくよ。話は車の中でしよう」

私は白崎社長と共に待機していたベンツの後部座席へと乗り込んだ。

続いてボディーガードの一人がベンツの助手席に乗り、あとの二人はもう一台の車に乗りこんだ。

「凄い警備ですね」

「まあね、企業買収なんかしてると何かと恨みを買っちゃうからね」

白崎社長はそう言って笑った後、急に真剣な顔つきになった。

「ところでさ、菜子ちゃん。君をこんな目に合わせたのが誰か、僕が教えてあげようか?」

「え?……」

「さっき君が会社から出てくる前にさ、あいつらに金を渡していた人物がいたんだよ。あれは間違いなく、早乙女コーポレーションの社長令嬢、早乙女彩乃だった」

ゴクリと唾を呑む私。
彼はそのまま話を続けた。
 
「これは僕の予想なんだけどね、彼女は君と宮内副社長の仲に嫉妬したんじゃないかな? それは彼女が宮内副社長の婚約者だから。違うかな?」

白崎社長は私から目を逸らさずにジッと見つめた。
きっと彼の目的は私から情報を聞き出すことだ。

私はハッと身構える。
彩乃さんを庇うつもりなんて全くないけれど、彼には答えてはいけない気がした。