それから、1週間が経った。
樹さんは宣言どおり、私の婚活からはいっさい手を引いてしまったけれど、その代わり、本気で『募金活動』に取り組んでくれていた。

「昨日、知り合いの社長が1000万寄付してくれたよ」

「えっ!? そんなに?」

「これで1億5千万だ。3億までもう少しだから、期待して待っとけ」

私の頭を優しく撫でながら、樹さんが得意げに笑った。

確かにこのペースなら3億も夢じゃない。
私がイメージしていた『募金活動』とは明らかにスケールの違うものだった。

「樹さん、ありがとうございます。私、樹さんにどうやってお礼したらいいでしょう?」

「別にお礼なんかいらないよ。気にすんな」

樹さんがクスッと笑う。

「でも、何かありませんか? 私にして欲しいこと」

そう口にすると、樹さんがハッとした表情で私を見た。

「じゃあさ。3億たまったら俺に料理作ってよ」

「へ?」

意外な答えが返ってきて思わず顔を見上げると、樹さんは熱っぽく私を見つめていた。

「俺、結婚する前におまえの肉じゃがが食いたい。最後に食わせて」

切ない声が耳に響く。
気づけば私は樹さんの胸の中にいた。

「べ、別にいいですけど」

「頼むな。おまえの味、一生覚えとくから」

そんな言葉をかけられて、封印していた気持ちが一気に溢れ出した。

“携帯小説の世界にもよくあるのよ。貧乏なヒロインが大企業の御曹司に恋しちゃう話”

ふと夕夏の言葉が頭に浮かぶ。

“意地悪な婚約者にとことん邪魔されるんだけどね、彼が本当に愛してるのはヒロインなの”

ドクンと大きく心臓が跳ねた。

樹さんも本当は私のことが好きなのだろうか。

誰もいない副社長室で、私と樹さんは無言のまま抱き合っていたのだった。