「それは……」

私は言葉に詰まる。
とてもありがたい話なのだけど、そんな方法で3億が集まるとは到底思えない。

「すみません、樹さん。私はやっぱり『玉の輿』を狙いたいです。白崎社長のことは諦めますから、別の方を紹介してもらえないでしょうか?」
 
私は思い切ってそう口にした。

けれど、私の言葉を聞くや否や、樹さんの表情が険しいものに変わる。

「おまえな、愛のない結婚なんかしてどうするんだよ。佳子ちゃんだって、そんなこと望んでねえだろ! 3億は俺が責任持って集めてやるから『玉の輿』なんていうバカな考えはいい加減捨てろ!』

樹さんは怒った口調でそう言うと、そのまま朝の会議へと出て行ってしまった。

副社長室にひとり残された私はポカンと立ち尽くす。

え?
何で?
どうして急にそんなことを言い出すの?

そこでふと彩乃さんの顔が浮かんだ。

もしかして、私の婚活に協力できないのは彩乃さんの為なんじゃないだろうか?

仕事以外で私に関われば彩乃さんを不安にさせてしまう。それで急きょ『募金活動』という方法に切り変えたのかもしれない。

だとしたら、もはや私は樹さんにとって『邪魔』な存在でしかない。

そんな風に考えたら胸がキュッと苦しくなった。