「で、さっきの件だけど」

食事を終えた後、樹さんが切り出した。

「おまえ、来週の木曜の夜は空いてるか?、この前のサクラージュホテルで財界の御曹司ややり手の起業家たちが集まるパーティーがあるんだけど」

「それ、ぜひ連れて行って下さい!!」

「よし、決まりだな。けど、その前にさ…」

樹さんは言葉を止め、ジッと私を見つめる。

「な、何ですか?」

「いや、菜子ってさ、パーティードレスとか持ってるの?」

「まさか…」

「だよな。この間のお見合いだって、見るからに安そうなワンピースで来たもんな」

樹さんはそんな失礼なことを呟きながら、ジャケットから自分の名刺を取り出した。

「とりあえず明日、パーティー用のドレスを買ってこいよ。靴やバックと一緒にな。『二越』で俺の名刺見せれば買えるように話を通しておくから」

『二越』とは銀座にある高級百貨店だ。
敷居が高くて、私は生まれてから一度も行ったことがない。

「いえ、そんな高価なものを買ってもらう訳には」

「慰謝料だって言ったろ? それに、これは会社の経費だから気にするな」

樹さんがにこりと笑う。

そうか。
私の結婚が早く決まった方が、樹さんだって都合がいいのだろう。

「…………分かりました。ありがとうございます」

いつか返せる時がきたら返そう。
私は樹さんの言葉にありがたく甘えることにした。

「それと……おまえの肩書きなんだけど」

「肩書き?」

「フリーターっていうのが、どうもな」