クスリと笑いながらキッチンに立ち、ふと時計を見ると、夜の8時を過ぎていた。
どうりでお腹が空くわけだ。
そうだ、確か冷蔵庫に作りおきの『肉じゃが』があったはず。
「あの……樹さん。夕食まだですよね? よかったら肉じゃがでも食べますか?」
「え、いいのか?」
「はい。今温めますね」
私は肉じゃがを火にかけて、冷凍しておいたご飯をレンジで温めた。
毎日ごちそうばかり食べている樹さんに、こんな質素な食事を出すのも気が引けたけれど。
キュウリの塩漬けも添えて、ドクタミ茶と一緒にテーブルへと運んだ。
前回は盛大に吹き出してくれたドクダミ茶。
樹さんは覚悟を決めたように手に取ると、ゴクゴクと一気に飲み干した。
「な? 別に飲めるんだよ、俺だって」
ドヤ顔で言う樹さんが、なんだかちょっと可愛く見える。
「そうですね。ちゃんと無人島でも生きていけそうですね」
私が笑ってそう言うと、今度は肉じゃがを頬張った。
「うまいじゃん。この肉じゃが」
樹さんが頷きながら口にした。
褒められればやっぱり嬉しい。
「そうですか? まだ、おかわりありますけど食べますか?」
「ああ、もらおうかな」
「ご飯は?」
「じゃあ、さっきの半分くらい」
そんな会話を交わしながら考える。
夫婦ってこんな感じなのだろうかと。
いやいや、何考えてるの、私。
急いで妄想を振り払い、樹さんのお皿に肉じゃがをよそった。
「でも、あれだな。この肉じゃがに肉が入ってれば最高なのにな」
樹さんがしみじみと口にする。
「贅沢言わないで下さい。野菜だって高くて手に入れにくいんですから」
「ハハ……。なんかここだけ戦時中みたいだな」
「貧乏くさくて悪かったですね」
フンと顔を背ける私に樹さんは優しくこう言った。
「そう拗ねるなよ。今度菜子の家に来るときは俺がおいしい肉を買ってきてやるからさ」
さり気なく『菜子』と呼ばれてドキッとした。
何これ。
胸がキュンとときめいてしまった自分に驚き、ちょっと複雑な気持ちになった。