そんな私の言葉に樹さんはなぜかふっと笑う。

「おまえに慰謝料なんて請求しないよ。こっちは結婚決まったしな」

「え………結婚が……決まった」

予想外の言葉を返されて、私は間抜けな顔になる。

「あ、あの……すっぽかしたのに決まったんですか?」

彼は確か社長令嬢とのお見合いだったはず。
プライドの高いお嬢様がそう簡単に許してくれるものだろうか?

「ああ、そうだよ。年明けに結納して、半年後には式を挙げる」

得意げに笑う顔を見て、何だか無償に腹立たしくなった。

「………なんかずるい。自分だけ」

「なんだ、そりゃ」

「だって、私の方はいくら謝っても全然許してもらえませんでしたよ。人まちがいしたって説明しても『どうせ俺の容姿を見て気に入らなかったから帰ったんだろ!』って怒っちゃって」

「なに、おまえ。バカ正直に話したのか? 体調悪くなったとか適当に誤魔化せばよかったのに。嘘も方便っていうだろ?」

「もう遅いですよ。しかも、婚活サイトの運営にまで通報されて、強制退会させられたんですから。ブラックリスト入りしたので他の婚活サイトにも登録できませんし。同じ失態を犯したのに、なんで私だけこんな目に合わなきゃいけないんですか!!!」

怒りをぶちまける私に樹さんが呆れたように呟いた。