どうやら、こたつの送り主はこの男だったようだ。

「あなたの仕業だったんですね! どうして人の家にこたつなんか送りつけてきたんですか!」 

あまりに非常識な振る舞いに思わず怒鳴っていた。

「そんなの、俺が寒いからに決まってるだろ?」

樹さんはしれっと言ってのける。

「は? どういう意味ですか?」

「だから……この間の件を話し合うのに、壊れたこたつじゃ俺が寒いだろ? だから用意した」

「いやいや、何言ってるんですか! そんなこと勝手にされたら困ります! だいたいいくらするんですか、このこたつ」

そう。
私にはこんな高額なものを支払う余裕なんてない。
今からでも返品してもらわないと。

なんて考えていると、樹さんが思わぬひと言を発した。

「いくらだっていいだろ? 俺が金払うんだから」

「え………くれるんですか? このこたつ」

私は大きく目を開けて樹さんの顔を見る。

「ああ。やるよ」

「ほ、ほんとに……いいんですか?」

「ああ、やるやる。だから、ほら。おまえも入れよ。暖かいぞ」

樹さんはそう言ってニコリと微笑んだ。

「じゃ、じゃあ……遠慮なく」

お金持ちの考えていることはよく分からないけれど、くれると言うのだからここはもらっておこう。

私は樹さんの向かいに座る。
うわっ。ほんとに暖かい!
まるで温泉にでも浸かっているみたいだ。

「それじゃ、早速本題に入らせてもらうけど」

樹さんの声でハッと我に返る。

そうだ。
呑気に暖まっている場合じゃない。
私は背筋を伸ばして樹さんの顔をまっすぐに見つめた。

ここは毅然とした態度でのぞまなくては。

「慰謝料なら払いませんよ。先に勘違いして声をかけてきたのはあなたの方ですし、どちらかと言えば私の方が被害者だと思います。破談になったことで生じた損害は、ご自分で何とかして下さい!」