「親父。調子はどうだ?」

ここは桜丘中央病院の特別室。
ベッドに横たわる父は、この一カ月ですっかり痩せ細ってしまった。
 
「すまないな、樹。会社がこんな大変な時に……」

「会社のことなら心配いらないよ。縁談の方も上手くまとまったしな」

「じゃあ、『サクラール』の融資の件は!」

父はそう言って俺の腕を力強く握った。

「ああ。大丈夫だよ。もうすぐ治験も再開できると思う」

「そうか。すまんな、樹…。でも、『サクラール』はがん患者にとって希望の薬なんだ。何があってもこの薬だけは完成させなきゃならん。おまえには苦労かけるが、頼んだぞ、樹」

「分かってるよ。『サクラール』は必ず世に送り出してみせるから」

そんな約束を交わし父の病室を出ると、車椅子に乗った若い女性患者とすれ違った。

ニット帽をかぶっているが、恐らく抗癌剤の影響で髪が抜け落ちてしまったのだろう。

顔色も悪く、ずい分痩せ細ってしまっている。

彼女は『サクラール』が完成するまで、はたして生きていてくれるだろうか。

胸がギュッと苦しくなった。