家は学校から徒歩圏内で二十分弱で着く。私は何も考えないようにしていた。そうすると二十分がやけに長く感じた。


「ただいま」


家に着くと、当たり前だが誰もいなかった。兄弟が居るわけでもなく、両親は仕事にいっているからだ。


靴を脱ぐと真っ直ぐ自分の部屋に向かった。考えてみれば、一軒家でまあまあな広さの自分の部屋を持っている時点で十分幸せなんだな。


『好きです』


さっきの告白を思い出した。


それだけで顔が暑くなり、赤くなった。私にはあんなことの言える人の気持ちがわからない。言える気がしないからだ。


私は彼のことを全く知らない。名前とクラスだけ。桜波一光君。あのとき、あの場所に行かなければ出会わなかったかもしれない彼。


『一目惚れしました』


いったい私の何処に?こんなに地味で暗くて本ばかりを読んでいるような私だから、取り柄もないし、はっきり言ってここに逃げてきたのに…………。私は…………一目惚れされる資格もない。


「寝て忘れよう」


それが一番だと思い、部屋着に着替えて少し寝ることにした。少なくとも両親が帰ってくるまでは寝ていないと、だんだん恥ずかしくなる。